アニメ・アーカイブ研究

 

研究プロジェクト名

アニメ・アーカイブ研究

実績報告

令和4年度 アニメ・アーカイブ研究実績報告書

令和5年度 アニメ・アーカイブ研究実績報告書

令和6年度 アニメ・アーカイブ研究実績報告書

 

専任教員名

キム・ジュニアン   人文社会科学系(経済科学部)・准教授

概略

 アニメ‧アーカイブ研究プロジェクトは、2016 年にアニメ演出家の渡部英雄氏より、1970年代から1990年代末までのアニメの制作現場で作成・使用されたアニメ中間素材(絵コンテ、脚本、各種設定資料、原画、セル画など)が本学に一任されたことをきっかけとして始まりました。この中間素材は、現在「渡部コレクション」と呼ばれています。同じ年には、さらに同年、ガイナックス社(当時)から長編アニメーション映画『王立宇宙軍 オネアミスの翼』(監督山賀博之、1987年公開)の中間素材も委託され、同社の協力のもとで、その中間素材をデジタル化したデータを活用し展覧会を国内・海外で複数回開催しました。

 2017年度には科研費研究課題「渡部コレクションに基づくアニメ制作過程の実態研究」(基盤研究C課題番号17K02356)、2020年度には科研費研究課題「アニメ中間素材」の分析・保存・活用モデルケースの学際的研究」(基盤研究B課題番号20H01218)が採択されたことで、アニメ中間素材のアーカイブ化・デジタル化はより一層進展しました。特に、画像データとメタデータを同時に閲覧できるオンラインデータベースシステム(研究者限定)が完成し、今現在デジタル・アーカイブとして機能しています。なお、著作権侵害にならないよう画像データを省いたオンラインデータベース(http://acasin-db.jp/)も一般向けに公開しています。文系のみならず理系の研究方法も積極的に取り入れることで、デジタル・アーカイブの構築だけでなく、セル画の修復に関する材料工学的な研究も進め、多くの研究成果をあげています。

 アニメ・アーカイブ研究プロジェクトは、2025年度から新しいフェーズへ進み始めました。整理番号基準で4000点に及び、さらにTVアニメ1話分の絵コンテだけでも100ページを超える量的な膨大さ、そして作成時期が半世紀にまたがる時間的長さゆえに、アニメ中間素材の網羅的な調査・研究は容易なことではありません。このような課題に対応するため、本研究プロジェクトはデジタル・ヒューマニティーズ的研究方法への接続を進めています。個々の研究者が扱いうる範囲をはるかに越える時空間的に巨大なスケールの文化資源をデータ化し、デジタル技術を用いることで、人文社会学的に有意義なパターンや傾向などを明らかにしようとする試みです。そのため中間素材画像データの内容が識別、抽出できるAIアプリを開発し、研究教育機関やアニメ業界など社会の諸場面におけるデジタル・アーカイブ構築にも貢献することを目指します。

渡部コレクションについて ――アニメ制作の様々な段階と局面

 本研究プロジェクトの発足のきっかけになった渡部コレクションは、1974年頃から1990年代半ばまでアニメ制作現場で撮影、制作進行、演出助手、絵コンテ、演出、原画などの仕事に携った渡部英雄氏が演出術の研究のために現役の時代から収集、保存していたアニメ中間素材です。渡部氏は『宇宙大帝ゴッドシグマ』(1980)、『わが青春のアルカディア 無限軌道SSX』(1982)、『夢戦士ウイングマン』(1984)、『GIジョー』(1984:日米合作)、『11人いる!』(1986)、『北斗の拳2』(1987)、『機動戦士Zガンダム』1985)、『機動戦士ZZガンダム』(1986)、『銀河英雄伝説』(1991)、『新世紀エヴァンゲリオン』(1995)などの多くの制作現場で中核的スタッフとして活躍しました。

 渡部氏が収集したアニメの中間素材は、氏が制作に関わっていた1970年代から1990年代までのものが多く、第2次及び第3次アニメブームというアニメ史上の重要な時期と重なっており、産業的‧文化的・美学的側面からのアニメ研究の貴重な手がかりになります。渡部コレクションはキャラクター設定から絵コンテ、脚本、原画、動画、背景画、アフレコ台本、さらにスタッフによる手書きのメモに至るまでアニメ制作の様々な段階と局面を示しており、海外からの受発注関連素材も多く含まれています。現在、639点の絵コンテ、252点の脚本、463点のキャラクター設定、612点の原画、260点のセル画がアーカイブ化されています。

本研究プロジェクトの教育活動について

 本研究センターが収蔵するアニメ中間素材は、2016年度より新潟大学の実習型講義に導入されてきました。学生が素材の分析を通して、作品が生み出されるまでのプロセスを実証的に確認することで、モノとしての素材が語るアニメの現場、歴史、スタイル、美学についての知識を主体的に獲得することを狙いとしています。受講生は素材をデジタルデータ化するスキャニング作業に従事しながら、自身の研究の題材を見出し探求していきます。また、渡部氏の特別レクチャーも合わせて開催されます。

 2026年度からは大学院の博士前期課程にアニメ・映像資源科学プログラムが始まることで、アニメ中間素材は教育現場でより一層本格的に活用されることになりました。同プログラムでは、画像情報工学や材料工学、法律など他の分野を組み合わせ、アニメ中間素材という映像資源の活用に際して浮上する複雑な課題を多角的に検討、研究していきます。そうすることで、アニメ‧アーカイブの果たす役割は複合的となり、より一層重要なものになると期待します。

プロジェクトメンバー

氏名 所属・職名 専門分野
キム・ジュニアン 新潟大学人文社会科学系(経済科学部)・准教授 表象文化論
今井 博英

新潟大学DX推進機構 情報基盤センター/経営戦略本部評価センター‧准教授

情報通信ネットワーク
五島 一浩 メディア・アーティスト  
布山 タルト 東京藝術大学大学院・教授 アニメーション教育研究
三俣 哲 新潟大学自然科学系(工学部)・准教授 高分子材料・複合材料工学
村松 正吾 新潟大学自然科学系(工学部)‧教授 画像情報工学
渡部 英雄 開志専門職大学‧教授 アニメ演出
須川 亜紀子 横浜国立大学‧教授 ポピュラー文化研究
木村 智哉 開志専門職大学・准教授 アニメ‧映画史研究
ダリオ‧ロッリ Durham University‧ 助教授 メディア研究
ジャクリーヌ‧ベルント Stockholm University‧ 教授 マンガ‧メディア研究

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