【インタビュー】アーキビストの活動に迫る 鈴木潤

2020年10月02日
特集 アニメ

写真:アーカイブ作業の様子

「アニメ・アーカイブ研究センター」の活動は様々な人たちによって作られています。中でもアーキビストはこの活動に欠かせない存在です。そこで今回は2017年からアーキビストとしてこのプロジェクトを支える、新潟大学大学院現代社会文化研究科所属の鈴木潤さんにインタビューしました。彼女はどのような経緯でこれに参加し、どのような活動をしてきたのでしょうか。

アニメ・アーカイブ研究プロジェクトに参加した経緯

――鈴木さんはずっと実写映画の研究をされている方だと思っていたので、アニメ・アーカイブをされていることに驚きました。経緯を教えてください。

鈴木 2017年、博士後期課程の2年目からです。もともとは、J-ホラーの研究をやりたいと思って新潟大学大学院の博士前期課程に進学して、博士後期課程では日本の占領期の日本映画を研究することにしました。その研究の過程で、実写映画の中間素材である脚本や、検閲に関する書類・メモなどに触れる機会が多いので、「アニメ中間素材のアーカイブ作業をやってみない?」と、石田先生にお声がけいただけたのかなと思っています。

アーカイブ活動の変化。転機は『オネアミスの翼』

――今はもう(表現プロジェクトU [1] 開始時)当初に買ったスキャナでは撮ってないのですよね。

鈴木 「表プロ」で学生さんたちが使っていたのは、オープンヘッドというタイプのスキャナ(図1)でしたね。あのスキャナでは、資料はむき出しで、プラスチック製の板で上からプレスして、皺や折り目を一時的に均した状態でスキャンすることになるので、その板に蛍光灯の光が反射することが多く、綺麗な状態でスキャンするのが結構難しいものでした。資料がまっすぐに置かれているか、ごみなどが挟まっていないかといった確認がすぐにできるという利点もあるのですが。今、主に使っているのは接写型のスキャナ(図2)です。こちらは、原稿台に資料を置いて、ふたを閉じてスキャンするので、蛍光灯の光が反射してしまう、という問題は起きません。ですが、まっすぐに置いたつもりの資料が、実はちょっと斜めになっていたり、ふたを閉じるときにずれてしまったりするので、慣れるまでは少し時間がかかりました。とはいえ、解像度を細かく設定できるし、画像の色味も、このアーカイブにはどんな設定がふさわしいのかを考えて、いろいろ試すこともできます。『王立宇宙軍 オネアミスの翼』の作業時は、まだそこまでそれぞれのスキャナの特性を分かっていなかったので(今もまだまだですが)、単純に、資料のサイズに合わせてオープンヘッド型と接写型とを使い分けていました。

 

写真:オープンヘッドスキャナイメージ
図1 表現プロジェクト演習Uの様子。画面中央の機械がオープンヘッド型のスキャナ。

 

写真:接写型スキャナイメージ
図2 接写型スキャナで作業をする様子。

 

――接写型になったことによってアーカイブ作業の具体的な工程は大きく変わりましたか?

鈴木 先ほどもお答えしたように、このスキャナは設定から何から、「その画像をどう使うのか?」によって変更できる仕様です。なので、事前に「この設定だとどうなるだろう?」というのを何パターンも試して、石田先生やキム先生にも意見をいただいてから、スキャンするときの設定を決めるようにしています。また、スキャンする際には資料の周りに余白を作ることで、資料の隅から隅までを取り込めるようにしています。スキャン範囲の設定は手動なので、この微調整も、慣れるまでは少し手間取りました。でもその分、どこか見切れていないか、折れたままになっていないか、といったチェックは、かなり細かくできています。

――手動でやることで細心の注意をしながらできるということですね。

鈴木 そうですね。解像度や画像の色味、明るさなどに意識が向いたのも、接写型のスキャナになってからです。設定一つ変えるだけで、出来上がる画像データの状態がすごく変わってしまうので、今も勉強して、試行錯誤をしている最中です。

撮って終わりではないアーカイブ活動

鈴木 また、これは印刷技術との関連にもなってくるのだと思いますが、データをパソコン上で見るにはこの解像度で十分だけれど、紙やその他の素材に印刷してみると、「あれ?」となってしまうこともあります。例えば『王立宇宙軍 オネアミスの翼』のデータは、八王子夢美術館や、シンガポール、スウェーデンの展覧会で利用されましたが、印刷されたものを見るまで、正直、気が気ではありませんでした。こんなかたちで、自分が作業をしたデータが使われるとは思っていなかったので。

――撮って終わりではなくて、その先の利用も踏まえてアーカイビングを考えていく必要があるということですね。

鈴木 その通りだと思います。このデータが将来、どんな風に活用されうるのかを色々と想像して、そのためには今、どうしたらよいのか、どんなことができるのかを考えて、作業をしなければと思っています。やはり、50年後、100年後に、「新潟大学に、やたらと細かい作業をするマニアがいたらしい」と思われるだけのものでは、だめですよね(笑)。

脚注

  1.  表現プロジェクト演習は新潟大学人文学部の必修講義のひとつ。その内容は地域社会や文化に広く開かれたより実践的なものである。2016年の表現プロジェクト演習からアニメ・アーカイブが実施された。略称「表プロ」。

プロフィール

写真:鈴木潤鈴木 潤(すずき・じゅん)

新潟大学大学院現代社会文化研究科博士後期課程、研究支援者
専門は映画研究。アニメ・アーカイブ研究センターでアーキビストとして2017年から研究に携わる。研究に『「去勢する」女性たちの映画としてのJホラー:『邪願霊』から『リング』へ』(2016)や「占領期における女優・田中絹代のスターイメージ―「投げキス事件」の受容をめぐって」(『表現文化研究』第14号、2018)などがある。

取材日:2020年8月18日
取材・文/現代社会文化研究科 竹内知葉

 

関連リンク:
アニメ・アーカイブ研究