新潟大学における「渡部コレクション」の学術利用① データベース構築
2016年4月、新潟大学教員の研究組織として「アニメ・アーカイブ研究」センターが発足し、「渡部コレクション」の整理分類に着手しました。その後、情報工学者である今井博英准教授が加わり、中間素材の検索とその図像閲覧が可能なデータベース「新潟大学アニメ中間素材データベース AIMDB」の構築を開始しました。同データベースは、アニメ・アーカイブ研究の中核です。
大学に所属する研究者にとっての中間素材は、まずもって、アニメ研究を推進するための資料です。研究者が中間素材を呈示する機会と場所は、学会や研究会、あるいは学会誌であり、基本的に非営利の活動と媒体となります。
「新潟大学アニメ中間素材データベース AIMDB」構築のために、中間素材はすべてスキャンニングし、デジタルデータ図像として、データベースに収納することを目指しています。スキャンニングは、資料検索を効率よく行うことと、資料保全を貫徹することの二つの目的のために行われています。というのも、「渡部コレクション」には、劣化が著しいものや、青焼きのものも多数含まれているため、デジタルデータ化することで、閲覧時の破損等も防ぐことができると考えているからです。中間素材に記載された情報を漏れなくデジタル化するために、すべての素材は表と裏の両面がスキャンニングされています。なお、2022年度にメタデータの入力は、ほぼ完了したのに対し、デジタルデータ化は、まだ25パーセント程度しか完了していません。
アニメ・アーカイブ研究チームによるスキャンニングの解像度は、アーカイブ開始時は350dpiでしたが、その後400dpiに変更されました。クリエイターの神村幸子氏によれば、350〜400dpiでは原画の線のニュアンスを捉えることはできず、最低600dpiは必要です。ただし、本データベースは、中間素材の検索と閲覧がスムーズに行えることを最優先事項とし、現行の解像度を維持する予定です。
「新潟大学アニメ中間素材データベース AIMDB」の利用は登録制です。利用希望者には利用目的を提出してもらい、アニメ・アーカイブ研究チームによる審議と承認を経て、ログインIDとパスワードを発行しています。2023年12月現在の利用者は、研究者、アーキビスト等を中心とした20名です(*)。そして、図像データの不正利用を防止するために、閲覧する図像には自動的に閲覧者の氏名がウォーターマークとして入る仕組みを採用しています。
ただ、学術利用であるとはいえ、スキャンニングについては、中間素材の利活用に伴い権利者の許諾を得る必要があるか否かを、関係者にて検討する状況も、生み出しています。図像も含むデータベース構築に関しての制作会社各社見解については記事8「「渡部コレクション」とその学術利用についてのアニメ制作会社の見解」 を、法律上の位置付けについて記事9「中間素材保管と利活用に関する法的留意点−「渡部コレクション」とその学術利用を事例として」を、あわせてお読みください。
(*)新潟大学アニメ・アーカイブ研究チームのメインスタッフ、科研費「「アニメ中間素材」の分析・保存・活用モデルケースの学際的研究」 グループに参加している研究者に加え、「渡部コレクション」を構成する中間素材の権利元であるアニメ制作会社のスタッフも一部含まれています。
今後に向けて ネットワーク連携と法的整備
いっぽう、データベースのテキスト版である「新潟大学アニメ中間素材データベースACASIN-DB(テキスト版)」は、2023年2月からウェブで公開され、ログインなしで、「渡部コレクション」にどのような中間素材があるのかを検索することができるようになっています。同データベースの内容一覧は、記事10「「渡部コレクション」内容リスト一覧」に掲載しています。
2016年から2023年の七年間に、「渡部コレクション」と「新潟大学アニメ中間素材データベース AIMDB」を用いた学術研究は多数発表され、いずれも学界から高い評価を得てきました。制作現場で産出され使用された中間素材を用いることにより、アニメという媒体・産業・技術・表現についての理解は急速に進み、アニメ研究は一歩も二歩も進みました。しかし、もっとも重要なことは、アニメ中間素材研究に、人文系研究者だけでなく、情報工学や高分子化学の研究者も参加し、各々のディシプリンに基づいた知見を駆使して、それぞれの領域において成果を挙げていることでしょう。
詳しくは下記をご覧ください。