「渡部コレクション」とその学術利用についてのアニメ制作会社の見解

制作会社は自社の外部に存在する「渡部コレクション」とその学術利用について、どのように捉えているのでしょうか。「渡部コレクション」に含まれている、主たる中間素材の著作権者である制作会社に、次の二点について見解を尋ねました。

  • 「渡部コレクション」内に現存する自社の中間素材について、どのように捉えていますか。
  • それらの利活用と今後の可能性について、どのように捉えていますか。

A社スタッフの見解

  • 入手の経緯はどうであれ、過去の中間素材が保管されていることは良いことである。
  • 学術利用について特段の問題はない。
  • データベース構築とその利用は、利用者の管理とセキュリティが施されているのであれば、特段の問題はない。
  • 原作がある作品の中間素材利活用は、原作者・出版社の許諾が必要である。
  • 原作がなく、当社のみで許諾が完了する中間素材の利活用を、より積極的に歓迎したい。
  • 将来、新潟大学で保管できなくなれば「渡部コレクション」に含まれる当社の中間素材を引き取る可能性もある。

B社スタッフの見解

  • 中間素材の返却を希望する。
  • IPの中心を担う素材なので、扱いは慎重にならざるを得ない。

C社スタッフの見解

  • 数十年前の中間素材が生存していることは、貴重であり、大変喜ばしい。
  • 社内に残されていない素材に関しては、展覧会等開催時に協力しあうこともできるのでないか。

D社代表取締役の見解

  • 学術利用であれば、中間素材の利活用、データベース上での画像閲覧についても問題はない。

E社スタッフの見解

  • 新潟大学での中間素材の保管に問題はなく、学術利用についても問題はない。また、セキュリティ付きデータベースでの画像閲覧も問題ない。
  • 展覧会のように、より多くの人々に向けて中間素材を公開するときは、入場無料であっても、許諾が必要である。
  • 今後の中間素材の利活用において協力できることもある。

自社の中間素材が「渡部コレクション」に存在していることについて、各社スタッフの見解は概ね好意的です。「渡部コレクション」の今後の利活用に関して、相互協力に言及する社も複数ありました。

「渡部コレクション」の資料的価値

「渡部コレクション」の多くは原本ではなくコピーです。しかし、制作会社へのインタビューを通して、その資料的価値が評価されていることが判明しました。A社およびC社の見解にあるとおり、制作会社が現存を把握できていなかった中間素材については、原本であるか否かにかかわらず、その希少性が注目されています。

語弊を恐れずに述べれば、多くの工程がデジタル環境に移行しているなか、セルアニメ時代の中間素材が現存している事実は、制作会社の管轄下で保管されてきたか否かよりも重視されているようです。もちろん、2023年現在の中間素材管理状況から判断すれば、「渡部コレクション」の形成過程は看過できません。しかしいっぽうで、過去に遡って法的に争うといった対応策は、積極的に選択されていないように思われます。

制作会社各社のこうした見解と対応は、クリエイターの見解、たとえば「原本がすでにない素材も多いので、コピーが存在しているだけでもありがたい」(山賀博之氏)や「残っているものはすべて残す」(神村幸子氏)に通じています。制作会社とクリエイターの双方の見解を踏まえると、「渡部コレクション」は、アニメ業界からも存在意義が見出せる資料体であるといえます。

そして、使用許諾申請を適切に行い、かつそれが学術利用である限りは、研究者が「渡部コレクション」とそのデータベースを用いて研究を行い、その成果を学会発表や論文・著作等で発表することも理解されているという実感を得ています。

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