「文化財」としてのアニメ中間素材保管と利活用推進に向けて

中間素材の個人による管理の限界と学術利用のための許諾申請における困難を克服することと、さらには中間素材の情報収集と利活用の好循環を生み出すには、何が必要でしょうか。まず、求められるのは、業界団体・学術団体・研究教育機関・美術館/博物館・行政・官公庁が参画し協力するアニメ中間素材アーカイブのネットワークの存在です。なかでも、制作者会社の管理外にある中間素材についての情報を収集し、中間素材保管者と制作会社をつなぐ「中間素材相談窓口」の開設が必要であると考えます。

中間素材相談窓口開設とそのメリット

中間素材保管者に対するサービス

中間素材の保管者がクリエイター本人であるとは限りません。クリエイターの親族や縁者など、アニメ業界の外部の位置する主体であることも十分想定されます。また、近年はクリエイターの高齢化が進むなかで、手元で保管されてきた中間素材が廃棄と散逸の危険に晒される可能性が高くなっています。再度の廃棄と散逸を未然に防ぐことを目的として、中間素材相談窓口で以下の業務を行います。

  • 制作会社との協議の場の設定
  • 中間素材保管場所のマッチング(制作会社による引き取り、保管可能なアーカイブの紹介)
  • 中間素材保存に関する知識提供

中間素材の学術利用許諾申請者向けのサービス

中間素材の学術利用許諾申請者に向けて、上述の業務に「中間素材利活用に関する知識提供」を追加します。申請者にとっては許諾申請手続きが可視化されると同時に、制作会社においては、通常の業務外である許諾作業によって生じる負担を軽減することができると考えられます。

中間素材保管と利活用の循環

中間素材相談窓口開設のメリットは、中間素材管理と中間素材利活用の循環を生み出せることにあります。中間素材相談窓口によって、制作会社は把握できていなかった自社の中間素材情報を収集できるため、過去の知的財産を再取得する可能性が生まれます。

中間素材相談窓口では、中間素材の所在および内容をデータベースに登録し、制作会社、業界団体と共有し、中間素材の廃棄と散逸防止に活用します。と同時に、保管者のプライバシー等を保護しつつも、中間素材保管状況をオープンデータ化することで、利活用の種をまきます。情報収集による中間素材管理と、情報共有によって中間素材の利活用の循環を生み出すことで、中間素材を埋蔵せずに、コンテンツに新たな価値を付与することができるでしょう。

アニメ中間素材アーカイブ・協力ネットワーク

中間素材相談窓口とその業務を実施するには、その基盤となる組織が必要です。中間素材の点数の多さに鑑みても、単体の組織が対応するのはとても難しいです。そのためにも、業界団体・学術団体・研究教育機関・美術館/博物館・行政・官公庁「アニメ中間素材アーカイブ・協力ネットワーク」(図1)を形成し、事態に対応するべきだと考えます。そのハブになるのは、前節で述べた「中間素材相談窓口」です(図2)。

同ネットワークに参画する組織は、以下の3点を趣旨に掲げることが望ましいと考えられます。

1.保存・保管 中間素材を公的に利用できるように、管理・整理すること
2.研究 中間素材研究を推進し、公的に発表すること
3.利用 中間素材及び研究成果等を公的に共有し、公共の知財・資材としてアニメの発展に資するようにすること

「アニメ中間素材アーカイブ・協力ネットワーク」による中間素材利活用は、学術・非営利活用が主となるため、大学等の研究教育機関・学術団体が中核団体として想定されます。「中間素材相談窓口」は、ネットワークの中核団体におかれるべきでしょう。それと同時に、「中間素材相談窓口」の主業務が中間素材保管者と制作会社の橋渡しをすることにあるので、制作会社、日本動画協会・日本アニメーター・演出協会などの業界団体、さらには先行するアニメ中間素材アーカイブである「アニメ特撮アーカイブ機構」等との協働は大前提となります。くわえて、国立映画アーカイブ、国立アートリサーチセンター、自治体、そしてなによりも文化庁との密な連携が必須です。

産官学と市民が連動する「アニメ中間素材アーカイブ・協力ネットワーク」が機能することで、中間素材の「文化財」としての保管と利活用が可能になるでしょう。

図1

図2

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