【インタビュー】日本の中小企業の優れた能力や知識を海外にどう発信していくべきか 張文婷
大学院時代では大企業をベースとしたグローバル広告戦略の研究をしていた張先生。しかし、現在は地域市場ごとの特性を活用して行うメタナショナルな広告が注目されるようになった。その地域の情報発信力を海外に向けてどのように活用していくべきかを考える。
幼いころから海外を行き来した中で見えたメディアへの疑問
――まず、先生が日本に来られることになった経緯を教えてください。
張 日本に来たのは私が小学生5年生の時、父の転勤で両親と一緒に来たのが最初のきっかけでした。栃木県大田原市にある小学校に入ったのですが、当時は日本語が話せず外国人も一人もいない学校だったので、当時は珍しくみられることが多かったですね。
寂しさはあまりなかったのですが、コミュニケーションの難しさはありました。漢字を使って会話をしていたのですが、日本と中国とでは漢字の意味が違ったりするので勘違いすることも多かったですね。
――先生はどんな子供でしたか。また就きたい職業はありましたか。
張 子供時代は、父親のしつけが厳しい影響もあって、幼稚園から小学校低学年のころまではおとなしい子供でした。小学1年生のある日、隣に座っていた子にパンチをされたことがあって、その子とは今でも仲良くお付き合いをしていますが、当時はそれをきっかけに「強くなりたい」と思うようになり、髪型や服装を男の子っぽくしていました。その気持ちから、警察官になりたいと思っていました。現在は大学の講師を務めていますが、周りの方との出会いやアドバイスによって今の教職に就いたといった感じですね。
――先生の研究分野とその研究をしようと思ったきっかけを教えてください。
張 専門は中小企業論とマーケティング・コミュニケーション論です。幼いころに日本と中国を行き来する中で、テレビメディアに映し出された外国のイメージが現実とかけ離れていることに疑問を持ったことが現在の道に進むきっかけになったのかもしれません。その後、新潟大学人文学部情報文化課程に進学し、メディアを通じての異文化比較といった分野の研究をするようになりました。
現在は、中小企業ナレッジネットワークセンターでの中小企業の研究と、私の専門でもあるメディアの異文化比較を結び付けた研究を進めていきたいと考えています。今までは大企業を中心に企業ベースの広告が多かったように思いますが、今後は企業が一方的に伝えるのではなく、企業の外からも知識を取り入れながらベストなメッセージを伝えていくことも可能な時代です。そのため、中小企業同士またはローカルとともに、広告ナレッジをどのように交換・育成・活用していくのか、といったところまで研究を広げていきたいです。
日本の中小企業の強みを海外でどういかせるか
――先生にとっての中小企業の良さはどのようなものだと思いますか。
張 やはり中小企業は「スピード感・小回り・柔軟性」がきくという良さがありますね。大企業では、意思決定を行う決裁者と現場の担当者の間に隔たりがあり、新規事業を行う場合に手続きと手間がかかってしまう。そういった隔たりや手間を必要としないのが中小企業の強みです。上下の垣根が低いことで、顧客の満足度や市場シェアを先取りできる可能性が高まります。
――今の日本の中小企業に求められているものとは何があると考えますか。
張 日本社会の成熟化と顧客ニーズの多様化により新たなニーズが高まったことで、大企業が対応しきれない部分を中小企業によるイノベーションの貢献が注目されるようになっています。日本のメーカーは元々日本市場の顧客を念頭に置いて、モノづくり能力を高めて性能や信頼性を上げ、その結果として収益(価格)を上げようとする志向が強かった。しかし、そういった品質や信頼性レベルの技術や製品を海外(例えば新興国市場)にそのまま投入すると、時として「過剰サービス」をもたらすことになりかねません。そのため、現地市場の顧客がどの程度の価格や性能を求めているのかを見極める戦略が必要になってくると思われます。またローカルの中小企業と高度に融合して、地域市場ごとの特性に配慮し、それぞれの企業の優れた能力や知識を共有しながら発信していくべきだと考えます。
友人と過ごせる学生時代の今を大切にしてほしい
――学生のうちにやっておけば良かったことや何かアドバイスがあればお願いします。
張 大学4年間は本当にあっという間でしたので、もっとやっておけばよかったことは多くあるのですが、あえて言うならば、友達との時間をもっと大切にすべきでした。学生時代は常にいくつもアルバイトを掛け持ちしていました。親に迷惑をかけたくないから、生活費や学費を稼ぐのに必死でした。
友人とは、ゼミ旅行を含めて4年間で5回ほど旅行に行きましたが、どれも一生の思い出となっています。「卒業しても毎年必ず旅行に行こうね!」と固く約束を交わしたのですが、続けられたのは最初の2年ほどでした。それぞれのライフスタイルの違いや地理的な距離の問題など、全員が集まれるのは至難の業です。友人と多くの時間をともに過ごせるのは、学生時代しかないかもしれません。このご時世ではありますが、是非友人と繋がる時間を大切にしてください。
――なるほど、今のうちに大学生活の中で関わることのできる交友関係を大切にしていきたいと思います。
プロフィール
取材日:2020年9月1日
取材・文/経済学部 矢ヶ崎成海
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