【インタビュー】知ってもらいたい中小企業と新潟大学のつながり 有元知史 × 張文婷

2020年09月29日
特集 中小企業

写真:張先生、有元先生

日本では全企業数の約99%以上を中小企業が占めている。しかし、経営や組織について議論する際は大企業を対象としている場合が多い。また、「就職するなら中小企業よりも大企業の方がよい」と考える学生が多いなかで、地方の国立大学が中小企業を研究や教育の対象とすることにはどのような意味があるのだろうか。

新潟県だからこそ気づけた「中小企業の面白さ」

――まず初めに、中小企業ナレッジネットワークセンター(以下「センター」という)の設立背景、成り立ちを教えてください。

 中小企業を研究や教育の対象にしている大学が全てではないため、地方の国立大学である新潟大学が中小企業を対象に研究するのには大きな意味があると考えています。また、人文系の学部から産学連携のムーブメントを起こせないかということで、センターの活動が始まりました。という感じでしょうか?

有元 そうですね。大学教員は一人で個人事業主のように研究しているのですが、総合大学で色々な分野の人たちを集めてより活発に研究しようという流れが4、5年前にありました。また、経済学部(現・経済科学部)の教員のなかでも、授業で大企業の話をする人が多いですが、新潟県で仕事をしていると中小企業にインタビューをしに行くことやお話することが多く、そこから中小企業という切り口で研究グループを作れないかというところから動き始めました。

――地方の大学だからこそ中小企業を研究するといった感じでしょうか?

有元 「地方の大学だから」というわけではないです。もちろん、東京や大阪にある大学とは違い、新潟大学は地方の大学ではありますが、そこをどうやって強みにしていくかと考えたときに、新潟県は想像以上に中小企業の経済が強いというところが大きかったと思います。

――地方の大学だからではなく、新潟県だから中小企業を研究するに至ったわけですね。先生方ご自身は初めから中小企業に興味はありましたか?

有元 私は東京の大学を出て新潟県に来た当初は、中小企業のことはあまり興味なかったと思います。ですが、新潟で生活していくうちに、多くの経営者とお話する機会や私自身会計の教員なので税理士の方とお会いすることも増えて、徐々に中小企業について興味が湧いてきました。

 私は人文学部卒業で、学生時代はメディアを通して異文化比較という分野に興味がありました。そのため、自然と大企業の方に目が向いていました。中小企業に興味を持ち始めたのは、昨年経済学部に着任してからですね。

企業が学生に求めるのは斬新なアイデアだけではない?

――活動実績としてビジネス・アイデアコンテストが昨年開催されていましたが、大学教員よりもビジネスや企業についての知識が足りない学生のどのようなアイデアを企業は必要としているのですか?

 教員は一つの分野について日ごろから深く研究して分析しているので、学生の方が目新しいアイデアを持っている場合が多いです。そのため、実際に企業の方々も学生の目線で生まれた斬新なアイデアを必要としていると思われます。また、普段ではあまり実行まで踏み出しにくい考えでも、学生はためらわずにアイデアを提案してくれるので、大胆さという意味でも学生のアイデアは必要だと思います。

――学生独自のアイデアを企業は必要としているのですね。有元先生はどうでしょうか?

有元 自分たちにしか出せない意見が必ずしも特別ではなくて、若い人も同じようなことを感じているということは上の世代にとって重要なことだと思います。もちろん学生ならではの考えも素晴らしいですが、同じ意見を持つということも斬新なアイデア同様、企業は必要としていると思いますね。むしろ若い人と会えるだけでも良い機会と感じる企業も多いようです。

――なるほど。無理やり人とは違う意見を出す必要はないというのは、学生にとってより気軽にアイデアを出せる感じがしますね。

企業は大きければいいわけではない?

――先生が考える中小企業の良さはどういうものだと思いますか?

 やはり中小企業というのはスピード感が大企業とは違うと思います。大企業は従業員が多くいるので、新しい事業を始める時に上から下、下から上への情報共有に時間がかかったり、色々な隔たりがあったりするなかで踏み出しづらい部分があります。それに対し、中小企業は経営者との距離が近いため意見が通りやすかったり、すぐに新事業に取り組めたりなどの小回りや柔軟性も大企業とは違った、中小企業の強みだと思います。

――規模が小さいからこそのメリットが中小企業にはあるのですね。有元先生はどうでしょうか?

有元 小さいことに意味を持ってビジネスをやっているケースは多々ありそうだとは私も感じています。大きければ良いという価値観を持たずに動いているのは間違いないです。それは、バブルの崩壊や人口減少などの色々な要因から考えられるもので、規模が小さいというところに中小企業の強みがありそうな気はしています。

国によって中小企業に対する認識が少し異なる?

――新潟大学は中小企業だけでなく海外の大学とも交流があるとお聞きしましたが、そこから感じた海外と日本の中小企業で異なる部分はありますか?

 センターが目指す方向性の一つに国際ネットワークがあり、韓国や台湾の先生方を中心に、これまでにも共同研究をして人的交流の場が多かったです。そういった活動のなかであえて挙げるとするなら、例えば、新潟では長岡花火や新潟酒の陣などの地域イベントでは多くの中小企業が関わりを持っています。それに対し、中国の哈爾濱(ハルビン)市のビール祭りという地元では大きなイベントでは、中小企業の関与度は低く、依然として大企業の方が力を持っていると現地の先生にお聞きしました。国によって中小企業に対する認識や期待が少し異なっているということです。

――やはり大企業と比較すると不利な立場に立たされるケースも多いわけですね。

中小企業の面白さや大学での研究の役割を伝える

――今後の活動を通して何を伝えていきたいと考えていますか?

有元 現在、大学は何をしているかを周りに発信していくことをより求められていて、そこに苦労はしています。センターは、大学の強みを発揮しながら社会貢献を含めての役割を担っていると考えており、もちろん中小企業の面白さも知ってもらいたいですが、大学の研究が社会にどういう役割を持っているのかも伝えていかなくてはいけないと思っています。

 新潟県は数々の産業集積地を抱えており、それに関わる専門家も多いです。また、推進協議体が日本では新潟大学以外に5つ、海外にも韓国や台湾に協議体があり、今後は中国、ロシアなども加わる予定ですので、センターを通して、色々なつながりが持てるということを伝えていきたいです。

――なるほど、先生方のお話を聞いて中小企業への興味がより湧いてきました。本日は貴重なお話をありがとうございました。

プロフィール

写真:有元知史有元 知史(ありもと・さとし)

新潟大学人文社会科学系(経済科学部)、准教授
早稲田大学商学部、早稲田大学商学研究科(大学院)卒。2008年新潟大学経済学部の教員となり、2020年4月に経済学部は経済科学部へと改組され現職に至る。所属学会・委員会は、日本管理会計学会と日本会計研究学会である。自身の活動・研究として「中小企業の連携と管理会計情報の役割」といった問題の研究の他、新潟地域の研究・教育における産学連携についての活動を行っている。

写真:張文婷張 文婷(ちょう・ぶんてい)

新潟大学人文社会科学系(経済科学部)、講師
2010年3月に新潟大学現代社会文化研究科修士課程修了後、2013年3月に同研究科の博士(学術)学位を取得。事業創造大学院大学の助手を経て、2019年4月から新潟大学経済学部(2020年4月より経済科学部に改組)の専任講師を務める。日本中小企業学会、日本経営学会、国際ビジネス研究学会、The American Society of Business and Behavioral Sciencesに所属。

取材日:2020年9月1日
取材・文/経済学部 坂田功星

 

写真:インタビュアー
(後列)張先生、有元先生
(前列)インタビュアー:矢ケ崎さん、羽深さん、坂田さん

 

関連リンク:
中小企業ナレッジネットワーク